2010年3月1日月曜日

■木の根の話
廣瀬隆夫

加島祥造と言う人がいる。写真を見る限り、かなりの年配だ。80歳はすぎているだろう。洋服を着ていなければ白髪、髭、痩せた体は、かすみを食う仙 人のようだ。とにかく、争うことや人の前に出ることが嫌いで、戦争中は軍隊の生活に耐えきれず、自分の体を傷つけてまでして脱走を試みたということだ。若 い頃は、大学で英文学を教えていた。翻訳者でもあり、フォークナーの短編集など、何冊も訳書を出している。その仙人が今、何をやっているかと言うと、家族 から離れて一人で長野県の山奥の伊奈谷という田舎でテレビもない、新聞もないという生活を送っている。老人の特権である気ままを絵に描いたような生活ぶり だ。晴耕雨読、好きな本を読んだり、詩を書いたり水墨画を描いたりして心を遊ばせている。彼は、タオイストとしても有名でタオ=老子に関する著作を何冊も 出している。

その彼の話。山に生えている木々をみると、競い合うように上へ上へと伸びている。少しでも多くの光を求めて、隣の木を押しのけて葉っぱを広げている ように見える。ここにも、弱肉強食という自然の摂理が働いているというのが一般人の考えである。彼が言うには、木は人より遙にも長生きするのだから大変な 知恵を持っているはずだという。人類は、秦の始皇帝の時代から永遠のテーマである不老不死を追い求めてきた。始皇帝の命を受けて不老長寿の妙薬を求めて除 福は、日本まで来たという伝説もある。その始皇帝も60歳まで生きられなかったし、これだけ医学が発達した現在でさえ、100歳まで生き長らえる人はまれ である。

屋久島の縄文杉は樹齢6000年を超えると言われている。木は、けた違いの長生きだ。こんなに賢い木が、愚かな争いはやらないんじゃないかというの だ。木は大地にしっかり根をおろしている。地面を掘り返してみると、うまく隣の木の根に入り組んで隙間を縫って伸びているそうである。そこには、相手を蹴 落とそうとか、なきものにしようとかいう争いの痕跡は全くなく、相互に支えあう共生の仕組みが働いているように見える。自然は、強いものだけが生き残ると いう単純なものではなく、我々の知らないところで、もっと賢い共生の仕組みが動いているのかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿